日本でも3月11日に約3年ぶりとなる新作アルバム「レベル・ハート」が発売され、本作収録のシングル曲「リヴィング・フォー・ラヴ」がFMでも頻繁(ひんぱん)にオンエアされて人気を博している世界のスーパースター、マドンナ(56)なのですが、いま欧米では彼女に関する騒動がメディアを賑わせている。
年齢差別か世代交代か?マイケル・ジャクソン&マドンナ
英国を代表するラジオ局で世界的にも有名な「BBCレディオ1」が、彼女のこの新曲「リヴィング・フォー・ラヴ」を“56歳の歌手が歌う楽曲は若者にアピールしない”との理由でオンエアリストから外したと報じられ、前代未聞の大騒ぎになった。
事の発端は2月14日夜の英紙デーリー・メール(電子版)なのだが、マドンナのこの新曲は、アルバムの発売に先駆け昨年の12月20日に全世界で一斉にデジタル配信された。
デーリー・メールの記事によると、レディオ1では年明けの1月9日、人気女性DJアニー・マックさんの夕方の番組で1回オンエアされただけで、この日午後7時以降、オンエアリストから完全に消えた。
さらに「アーティストが年を取ればファンが離れていくのは当然で、レディオ1は(選曲に)そうした事情を反映せねばならない。
われわれには若いリスナーの要求を満たす義務がある」というレディオ1の匿名関係者の声を紹介し、オンエアリストから外れた原因は、60歳目前という彼女の年齢にあるとの論調で報じた。
記事では「楽曲が優れているかどうかが問題で、アーティストの年齢は関係ない」というレディオ1の公式見解も紹介してはいるのですが、説得力はあまりなく、この報道を他の欧米メディアが一斉に紹介し、大騒ぎになった。
英BBC放送のラジオ部門のひとつ、レディオ1は1967年9月の放送開始以来、古くはビートルズやレッド・ツェッペリン、2000年以降はコールドプレイやレディオヘッドといった若者向け音楽をオンエアし、人気を集た。
60年代以降、世界の若者文化の象徴だったロック音楽によって、英国の若い世代に活力をもたらし、英文化そのものを牽引する存在。
現在の主要リスナー層は15歳~29歳ですが、08年時点のリスナーの平均年齢は30歳。
このためレディオ1では、マドンナだけでなく、90~2000年代に大スターとなったポップ歌手、ロビー・ウィリアムズや、彼と同世代のポップグループ、テイク・ザットらの楽曲ですら、最近はなかなかオンエアされない状況。
レディオ1では、主要リスナーである若者に受けそうにないオッサン・オバハン向けの歌手やバンドの「ブラックリスト」を作り、オンエアリストから意図的に外しているフシがあるというわけだが、マドンナを外してしまったら、個人的にはやり過ぎだと思う。
今は60歳だが、故マイケル・ジャクソンと同様、80年代以降の世界の文化を大衆音楽で激変させたうえ、ほとんど性差を超える存在感と成功を収めた希有な傑物である彼女の活躍ぶりを知る世代なら、彼女の楽曲が常に若い世代をターゲットに据えていることくらい分かりそうなもの。
デーリー・メールの報道は当然ながら全世界で想像以上の大騒ぎに。さすがに慌てたレディオ1は2月17日、公式フェイスブックで(デーリー・メールなどの)報道を信じないでほしい。
選曲の基準は楽曲の良さや若者へのアピール度などケース・バイ・ケースだが、アーティストの年齢は決して選曲要因にはならないと断言した。
事実、ポール・マッカートニーは最新の2曲「オンリー・ワン」と「フォーファイブセカンズ」はオンエアリストに入っていると反論した。
ところがこの反論がさらに音楽ファンの大きな反発を招いた。この2曲、いずれもメーンは欧米では超人気の米歌手カニエ・ウエストさん(37)でマッカートニーさんはあくまでもゲスト扱い。
さらに「フォーファイブセカンズ」に至っては、ポールだけでなく、これまた欧米で凄まじい人気の米女性歌手リアーナまでゲスト参加しており、レディオ1の視聴者層のど真ん中の楽曲です。
こんな往生際の悪い、というか小ずるい言い訳で音楽ファンを騙せると思う方がおかしいが、実はマドンナさんの一件が大騒ぎになった理由は、もうひとつある。
DJの業界コネをApple は配信サイトに
デーリー・メール紙電子版がマドンナさんの一件を報じる直前の14日昼、英音楽誌ニュー・ミュージカル・エクスプレスが、レディオ1の看板DJゼイン・ロウが、あの米アップルにヘッドハントされ、3月5日の放送を最後にレディオ1を卒業すると報じたため、レディオ1のゴタゴタぶりも相まって騒ぎが拡大した。
昨年5月8日付英経済紙フィナンシャル・タイムズなどが報じましたが、アップルは音楽業界でのさらなる成功をめざし、昨年8月、音楽配信会社を傘下に持つ米高級ヘッドホンメーカー「ビーツ・エレクトロニクス」を30億ドル(約3600億円)で買収。
さらに昨年10月24日付米紙USAトゥディや今年3月5日付米経済ニュースサイト、ビジネス・インサイダーなどによると、
アップルは、ビーツから引き継いだ音楽配信会社で、データ受信しながら同時再生する「ストリーミング方式」による定額制サービスを提供する「ビーツ・ミュージック」を6月から、より強力な配信サイトにリニューアルすると言われている。
実はアップルは、レディオ1から引き抜いたゼイン・ロウ氏はをこの新しい音楽配信サービスの要職に据える考えなのです。
ロウさんは単なるDJではなく、英のコールドプレイや米のフー・ファイターズ、米ラップ歌手のエミネムといった大物バンドやミュージシャンらと太いパイプを築くなど、音楽プロデューサー的な発想で番組作りに関わっており、アップル側はそうした人脈や才能を最大限、活かそうと考えているのです。
アップルへのヘッドハントが明らかになると、ロウさんは表向き、レディオ1に最大級の感謝と賛辞を贈りましたが、音楽業界やメディア業界の将来を考えれば、彼のような才能がラジオを見限り、ネットの世界に活躍の場を移すのは当然。
それにしても、マドンナさんを“オワコンのオバハン”扱いしていたという失礼過ぎる内幕を暴露されたうえ、看板DJのロウにまで見限られたかつての名門レディオ1の体らくぶりには言葉もない。
今回のマドンナさんを巡る一連の騒動は、音楽産業の主導権を握るアップルのようなネット業界の隆盛と、そのあおりを食うかつての音楽産業の雄、ラジオ業界のジリ貧ぶりを象徴しているが、テレビにはほとんど観えない。
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